2022/03/21

欧州連合(EU)

独特な経済的および政治的協力関係を持つ欧州の地域統合体

  • 欧州連合(EU)とは、欧州28カ国が加盟する政治・経済統合体です。
  • 地域統合を通じてヒト・モノ・資本の移動の障害を軽減し、欧州の経済的・社会的発展を促すことを目的としています。
3 議事録

■欧州連合(EU)の歴史

2009年12月1日に発効されたリスボン条約により、欧州は地域統合にむけて新しい局面へと突入しました。 EUの前身となる欧州共同体(EC)が、欧州でどのような発展を遂げてきたのか、リスボン条約によりEUはどのように変わったのかを歴史を振り返りながら見ていきましょう。

■なぜヨーロッパで地域統合が進んだのか?

元々ヨーロッパは、地域統合が進んだ地域として注目されていましたが、そもそもなぜ地域統合が進んだのでしょうか。 その答えは、絶えず戦争を繰り返してきた歴史にあります。特に第一次世界大戦(1914年-1918年)で甚大な被害を受けたヨーロッパは、各国が復興に多くの時間とお金を費やすこととなりました。このため、平和と和解を目指して、欧州を統合するという考えが見え始め、民族の対立を超えた社会を目指す理想が次々に提唱されるようになったのです。しかし、このあと世界は、第二次世界大戦(1939年-1945年)へと突入していきました。

■EUの元となる3つの共同体

第二次世界大戦後の1950年、ロベール・シューマン仏外相が、「欧州統合の父」の一人とされるフランスの政治家ジャン・モネの構想を具体化しシューマン宣言として、ドイツ・フランスの石炭・鉄鋼の共同管理を提唱しました。これまで、石炭と鉄鋼はドイツ・フランスの間で対立の火種となっていた資源でしたが、その生産を共同管理機関の下に置くことで、両国の和解と平和を進め、経済の安定を図り、政治的な不安定要素を取り除くことを目的としました。また、二度と戦争を起こしてはならないというドイツ・フランスなど欧州諸国の政治的な意思の強さが、統合促進の原動力となりました。

これらを背景に、1952年には欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立され、その後1958年に「欧州経済共同体」(EEC)、さらに同年「欧州原子力共同体(EURATOM)」が発足しました。 これら3つの共同体が1967年に統合され、欧州共同体(ECs)として再スタートを切ることになりました。

■飛躍を遂げるEU

欧州統合の背景には、激動する世界情勢が大きく影響しています。1987年の「ブラックマンデー」がアメリカからヨーロッパの株式市場へも波及しました。また、1989年にはベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一されることにより、ヨーロッパの安全保障環境も大きく変わり、ECはヨーロッパ内での結束を強める道を歩んでいきます。

そして、1993年にECはマーストリヒト条約を発効し、新しい共同体である「欧州連合(EU)」を誕生させ、参加国数の拡大を続けました。1993年の発足当時はわずか6カ国でスタートしたEUですが、数回の拡大を経て現在*28カ国へと成長を続けています。 *2019年1月現在

このように60年以上にわたって、欧州における平和と和解、民主主義と人権の促進に向上し、欧州を戦争の大陸から平和の大陸に変える重要な役割を果たしたことが評価され、2012年にはEUにノーベル平和賞が授与されました。

単一通貨ユーロ(EURO)

米ドルに次ぐ世界第2位の流通量を誇る

■ユーロの歴史

単一通貨「ユーロ」ですが、構想から実際に流通が始まるまで約30年以上の歳月がかかりました。1971年にはECで通貨統合を視野にいれた通貨安定の取り組みが始まり、1989年に経済通貨同盟結成に向けた計画を採択しました。そして、1990年から域内での市場統合が促進され、1991年単一通貨ユーロが導入されました。EUの前身となる欧州共同体(EC)が、欧州でどのような発展を遂げてきたのか、リスボン条約によりEUはどのように変わったのかを歴史を振り返りながら見ていきましょう。

ユーロの導入にあたっては、「参加国の経済が十分、かつ持続的に収れんされる場合にのみ、通貨同盟は長期的に成功する」との考えに基づいて、各国には経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)指標の改善が求められました。1991年1月の導入当時は11カ国でスタートしたユーロですが、導入当初は銀行間取引で使用する電子通貨として歩みはじめました。その後、2002年からはユーロ紙幣、硬貨が流通し始め、現在ではEUに加盟する28カ国中、19カ国*が採用するまでに成長しました。 *2019年1月現在

ユーロ硬貨の豆知識

様々な国で使用されているユーロですが、実はその硬貨は国ごとにデザインが異なります。例えばイタリアの1ユーロにはダヴィンチの「理想的な人体」、ドイツの10セントにはブランデンブルグ門など、国ごとの文化や歴史を垣間見れるデザインとなっています。
一方、紙幣はデザインが統一されており、表面には門や窓、橋などが描かれていますが、どこの国かを限定しないように、架空の建築物となっています。

■ユーロの推移

出所:ブルームバーグ

ユーロ導入後まもなくは、導入国間の経済格差が不安視され、ユーロ安となりました。しかしその後、世界的な好景気のなか、相対的に金利の高かったユーロへの需要が高まりました。

2010年にユーロ導入国のギリシャの債務危機問題が浮上し、ユーロは売られました。さらに債務危機問題はその後アイルランド、スペイン、イタリアなどに飛び火し、ユーロ危機に陥りました。そして2014年には、ウクライナにおいて地政学的リスクが高まったことや、ECBの金融緩和策によって更なるユーロ安が進行しました。

ブレグジット~イギリスのEU離脱~

ブレグジットに揺れ動くヨーロッパ

  • 現在欧州は、英国のEU離脱問題で揺れており、引き続きイギリス議会及びEU双方の合意を得た離脱を目指しています。
  • 「ブレグジット(Brexit)」は英国のEU 離脱をさす造語で、英国を意味する「Britain」と離脱を意味する「Exit」を組合せて造られました


    ■移民急増が招いた関心

    イギリス内でEU離脱への関心が高まった背景には移民の急増があげられます。イギリスは2000年代に東欧などのEU加盟国から多くの移民を受け入れていました。当時は、元々景気が良かったことに加え、移民による安価な労働力によってイギリス経済はさらに良くなりました。しかし、2008年のリーマン・ショック後にイギリスの失業率が高まるなかで、移民が職を奪っているという不満がイギリス国民の間で高まりました。シリアの難民問題によるイギリス国民の心情のさらなる悪化や、EUに支払う負担金の予算配分への不満も加わり、イギリス国内からEU離脱を求める声が上がったのです。


    ■議論はいまだ英国・EU双方の合意に至らず

    2016年6月の国民投票で離脱派が勝利し、その後新たにメイ首相が誕生しました。2017年3月、メイ首相はEUに対し離脱通告を行い、英国のEU離脱に向けた手続きを開始しました。

    交渉期間は2年とされており、2019年3月29日に英国はEUを離脱する予定ですが、EU離脱の前例がないことや北アイルランドとの国境問題があることなどで、議論は非常に難易度の高いものとなっています。

    2018年11月、EU離脱協定がEUにより承認されましたが、2019年1月現在英国議会の承認はいまだ得ることができていません。


    ■ブレグジットにおける3つのシナリオ

    ブレグジットには3つのシナリオが考えられています。

    移民流入制限のため単一市場のアクセスを犠牲にする「ハードブレグジット」、移民流入制限を緩め単一市場へのアクセスを確保する「ソフトブレグジット」、そして英国とEUが合意することなく離脱する「合意なき離脱」です。

    さらに、離脱協定最大の懸念事項である「アイルランドの国境問題」を抱えるメイ政権は厳しい局面に立たされています。正式離脱日の先送りや、国民投票の再実施などあらゆる可能性がある中で、今後も市場は不透明な動きを続けるものと想定されます。

    EUは最悪のケースを想定し、影響を軽減するための対策案の作成に乗り出しています。


    出所:各種資料をもとに、ドイチェ・アセット・マネジメントが作成

     

  • アイルランド問題

    ブレグジットの話の中で、話題に上がってくるのがアイルランドの国境問題です。これは、アイルランドの地図を見ると良く分かりますが、アイルランドの国境は南のアイルランドと、北のイギリス領である北アイルランドに分かれています。
    元々、アイルランド島は12世紀頃からイギリスに支配されてきました。20世紀にはいってから、ようやく独立運動が実を結び、1921年についに独立戦争が終結しましたが、北部アイルランドは英国にとどまる決断をしました。ブレグジットが現実となると、アイルランドでは南と北で異なる経済圏となってしまうため、物理的な「国境」を設けるかどうか等が議論の争点となっています。

CIO View