“現時点で、市場はまだインフレの持続性を過小評価しており、中央銀行が資本市場を支援する意欲を過大評価していると思われます。年内には、さらに痛みを伴う価格調整が行われることになるでしょう。“
2009年以降、投資家にとって「難局を乗り切る」戦略は非常に有効であったため、この戦略を継続したいと考えるのも無理はありません。結局のところ、2009年に金融危機後の相場上昇が始まって以降、S&P500が下落から回復しリターンがプラスに転じるまで、1年以上かかったことはありません[1]。そして、相場が下落している間に買えば、そのリターンはより大きなものになりました。
したがって、過去数十年で最悪の上半期[2]を経て、魅力的と思われるエントリー価格が提示された夏の初めには、市場に資金を投入する誘惑が大きかったのです。そして、その後の6月中旬のラリー[3]のスタートシグナルは、何と言っても米連邦準備制度理事会(FRB)の75ベーシスポイントという驚くべき大幅な利上げでした。その後、企業の堅調な四半期決算、原油価格の下落、インフレペースの横ばいが、投資家に新たな自信を植え付けました。FRBは2023年にも「ソフトランディング」[4]を実現するかもしれない、というのが一般的な見方でした。
しかし、当社の予想が市場のコンセンサスと最も乖離しているのは、まさにこの点です。市場は、FRBが金融引き締めを再び緩め、経済が低迷すれば、金利を下げてアクセルを踏むかもしれないと想定していますが、私たちは違う見方をしています。私たちは、景気後退を余儀なくされても、インフレと戦い、インフレ期待を巻き戻し、その結果、信用を回復させることが、来年にかけてのFRBと欧州中央銀行の最優先目標になるとみています。
その理由は、インフレがピークを過ぎてもすぐには克服できないからです(米国ではすでにそうなっており、ユーロ圏でも秋にはそうなると考えています)。インフレ率は持続的に3%を大きく下回る水準に押し戻されなければならないのです。変動が激しい商品インフレが緩和されるだけでは不十分で、それは物価が今年に大きく上昇した後に起こると考えています。中央銀行が最も懸念しているのは、家賃や賃金などより持続的なインフレ要因についてです。そして、このようなインフレ圧力は来年も緩和されることはないでしょう。
したがって、成長率の低下と同時に金利が上昇する可能性があり、これは市場にとって痛手となる組み合わせです。消費者は、コロナ後の活発な夏休みから帰宅すると、高インフレと金利上昇によって実質可処分所得が目減りしている環境に置かれることになります。当社では、消費者心理の悪化が、2023年の初めに米国で穏やかな景気後退を引き起こす可能性があるとみています。
このことは、私たちの投資見通しにどのような意味を持つのでしょうか。投資家は今後数年間、実質的なリターンが大幅に低下することを許容しなければならないと考えています。資産価値の伸びは消費者物価の上昇率を下回るかもしれません。しかし、高インフレだからこそ、投資家は投資を続けなければならないのです。なぜなら、インフレはそれだけで現金の購買力を2桁近く低下させるからです。
このような環境では、国債が最適な商品でないことは明らかです。その中で、本当に良いリスク・リターンプロファイルを提供できるのは2年物の米国債だけというのが私たちの見方です。長期債については、利回りの上昇(米10年債3.25%、独10年債1.75%)を見込んでおり、市場よりもさらに悲観的な見方をしています。社債についても、欧州の景気後退が穏やかなものになると考えれば、現在の欧州の利回りは悲観的過ぎるかもしれませんが、景気サイクルのこのステージはエントリーに最適なタイミングとは言えないでしょう。新興国債券も状況は似ています。新興国債券はいくつかの逆風(米ドル高、世界的な成長鈍化、インフレ)に直面していますが、ここ数ヶ月でリスクスプレッドが拡大しており、国の選別は依然として重要ではあるものの、リスク・リターンプロファイルは良好とみています。
一般的に、株式は債券よりもインフレ対策になる資産であると考えられていますが、リターンは控えめなものになりそうです。消費意欲の減退は予想以上に早く、投入コストは急上昇し、現在潤沢にある企業収益にメスを入れたいという政治的欲求はすぐには消えそうにありません。また、サプライチェーンの問題や脱グローバル化の流れも、株式にとってはマイナス材料です。また、米国では量的引き締め[5]が進んでおり、この利上げサイクルの中で株式は厳しい局面に立たされる可能性が高いと思われます。そのため、株式インデックスのリターン予想は控えめにしていますが、魅力的なセクターや企業が見つからないということではありません。
S&P500は年初来で13%下落していますが、エネルギー・セクターが48%上昇する一方で、通信セクターは29%下落するなど、セクター間で大きな乖離がみられます。セクターでは、ディフェンシブな強さと成長性を兼ね備えた医薬品セクターに特に注目しています。一方、不動産セクターを引き続き敬遠しています。個別銘柄では、各企業がコストの上昇分をいかに価格転嫁するか、あるいは他の方法でマージンを守ることができるかを注視しています。また、オルタナティブ投資については、インフレショックに対する耐性に注目し、インフラプロジェクトを選好しています。
原油は、今後1年間、今と同程度の水準で取引されるとみています。一方、金は1年後には1,900米ドル近くまで上昇する可能性があるとみています。深刻な地政学的、インフレ的な危機が進行している中で、ポートフォリオの多様化に貢献できるという魅力は変わりません。こうした危機と米国金利の上昇を背景に米ドルは急騰しましたが、今後1年間はユーロに対して極端な強さを維持することはないと考えています。
これからの1年、資本市場が退屈なものになるとは思えませんが、ボラティリティが高まるすべての局面が、その後の利益に繋がるわけではないことを理解しておく必要があります。しかし、このような時こそ、アクティブ運用の真価が発揮されるのではないでしょうか。