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2016年9月8日



台風の目の中に -  ロシア経済改革の行方

ロシア経済開発貿易省(MED) とロシア連邦中央銀行(CBR)は、ロシア経済の底打ちを発表した。連邦財政収支は2016年6-7月に単月ベースで赤字がほぼ解消される等、ロシア経済のファンダメンタルズには明るい兆しが見られる。一方で、ロシア連邦財務省(MinFin)はそれほど楽観的な見通しを持っているわけではなく、歳出のさらなる削減の継続を求めている。今後は、2018年春に予定されるロシア大統領選挙に向けて、メドベージェフ首相の交代等人事面で大きく変わる可能性はあるが、MinFinの緊縮財政に当面変化はなく、構造改革や経済成長重視の政策は大統領選挙後になりそうである。

ロシア連邦国家統計局(Rosstat)が発表した2016年第2四半期(4-6月)のGDP速報値は前年同期比-0.6%と、第1四半期(1-3月)の-1.2%からマイナス幅が縮小した。また、MEDが発表した2016年第2四半期の季節調整後GDPは月間平均で-0.2%だったが、ロシアの国有通信社であるRIAノーボスチはMEDの代表者の話として、「5月から6月の季節調整後GDPは、月間ベースで-0.1~0%のレンジ内にあり、マイナス幅は縮小している」と伝えた。2016年のGDP成長率をMEDは-0.2%と予想する一方、CBRは-0.7~-0.3%と保守的に見ている。そのCBRのエコノミストでさえも、「GDPの動きを見ると、ロシア経済は景気後退期を脱し緩やかな回復局面に入ったことを示している」と、定例報告のなかでロシア経済が正常化に向かっていることを認めた。

インフレ率についても、7月下旬から8月上旬にかけて週間ベースで前週比2週連続マイナスとなる等、改善が見られる。さらに、先述したように連邦財政赤字が足元で縮小している ことから、赤字の補填に用いられる準備基金からの支出(2016年1-5月は合計で約120億米ドル)が、2016年6-7月はゼロとなった。

一方で、MinFinはロシア経済全体が本当に改善しているとは思っていない。第一財務次官のタチアナ・ネスチェレンコ氏は7月の経済フォーラムで、「全てが平穏無事と思ったら、実は台風の目の中にいるだけだったということがあるが、ロシア経済は現在まさにそこにいる。“台風の目”から免れることは簡単ではないが少なくとも対処方法はあり、それを実施するためには政治的な決断が必要である。もし何もしなければ、来年末までに準備基金は枯渇し、賃金が支払不能となり、ロシア経済全体に深刻な問題が起きるであろう」と述べている。MinFinの意味する対処方法とは、まず歳出の削減・凍結を継続し、不人気の改革実行とともに連邦財政赤字を徐々に削減していくことである。具体的には、①関税も含めた税制上の優遇措置の削減、②男女ともに定年退職年齢の63歳までの引き上げ、③財政赤字が基準を超えた地方への罰則、④年金、公務員給与、社会保障費等における物価スライド制の廃止(特別なケースや状況時のみ調整)である。MinFinは今年の歳出を16.1兆ルーブルから15.7兆ルーブルに削減し、2017年~2019年の間はこのレベルを維持していくことを提案している。これによって今年の連邦財政赤字は対GDP比で3%強となり、また、毎年1%の赤字削減が期待される。このような財政健全化策に対して、ロシアの権力層のなかには、借入の拡大や債券の発行、紙幣の増刷によって財政赤字をファイナンスすることをプーチン大統領に働きかける声や、政府に年金や社会保障に関する約束を完全に履行することを強く求める声もある。

ただ、MinFinの提案は、CBRやプーチン大統領に近い有力者、そして前ロシア連邦財務相のアレクセイ・クドリン氏らによって支持されていることから、実施についてはそれほど懸念する必要はないであろう。クドリン氏は、プーチン大統領が2018年以降に行う改革プログラムの作成を委ねた1人であり、重要な局面においてクドリン氏の考えがMinFinやCBRの考えと一致していることは既に明らかである。

プーチン大統領はこれまで、MinFinやCBRの戦略に肯定的であった。通貨ルーブルの変動相場制への移行は、現在およそ3,960億米ドルある外貨準備高の維持につながり、また準備基金からの支出については、歳出を大幅に削減することなく、限定的な借入で財政の維持を可能にした。しかしながら準備基金は無限ではなく、早ければ今年の末にも枯渇するであろうとMinFinは警告している。もう1つの政府系ファンドである国民福祉基金は、1年前に資金の一部を投資プロジェクトに配分したものの、現在は全ての支出を凍結する決定がなされているため、事実上準備基金のひとつと見なされている。

少なくとも向こう3年間は歳出の削減が、政府系ファンド(約7.4兆ルーブル)のクッションになると期待できる。そして、2018年春の大統領選挙後には、所得税増税のような不人気な政策や改革の実施が可能になる。もちろん、当局が予想する2017年~2018年の緩やかな景気回復は、財政の安定化に寄与するであろう。

最近の政府や大統領府での人事の動きは、プーチン大統領が既に次の任期に向けた準備をスタートしたことを示している。この傾向は2017年まで続くと思われるが、同時に政府の経済政策も2018年までは変わりそうにない。もっともプーチン大統領の行動は時々予測不可能ではあるが。

インベロ アドバイザーズ株式会社 代表取締役 アブジケエフ・タメルラン

執筆者のご紹介

 

インベロ アドバイザーズ株式会社
代表取締役 アブジケエフ・タメルラン

現ロシア連邦モスクワ州立大学卒業。米ステート・ストリート銀行、PIMCO等、米大手金融機関のアジア、米国、欧州拠点において複数の業務に従事した後、2010年に東京にて投資戦略コンサルタント業務を手がけるインべロアドバイザーズ株式会社を設立。また、同年には、サン・インベストメント・合同会社へもパートナーとして参加し、プライベート・エクィティ業務に従事し、現在に至る。 英オックスフォード大学にて、国際関係学修士課程修了。
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