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2016年7月25日

ロシア経済の構造変化

ブルームバーグによるとロシア経済は、プーチン大統領が15年以上前に権力を握って以来、最も真剣に大幅な構造改革に取り組んでいるとのことである。重要なことは、このようなロシアの変化が、「石油時代の終焉」として広く喧伝されたサウジアラビアの脱原油依存に向けた計画と違い、不必要な宣伝や約束なしに起こっていることである。

原油価格の急落によりロシア経済全体は落ち込んだものの、新たな成長分野が出現し、成果をあげている。ロシア財務副大臣のマキシム・オレシュキン氏はブルームバーグとのインタビューで、「農業、食料品、化学、国内観光がすでに今後の新しい成長分野としての兆しを見せている。」と語っており、このような分野での成長は、輸出セクターの落ち込みをカバーするまでには至っていないものの、それは構造的要因によるところが大きいとしている。

しかし、これらの新しい成長分野のおかげで、ロシア経済全体の減速は緩やかになっている。例えば、2016年第1四半期のGDP成長率は前年比-1.2%と事前予想よりも落ち込み幅が小幅となり、2015年の景気後退が始まってから最もマイナス幅が小さくなった。また、ブルームバーグによれば、ロシア経済はここ20年間で最も長く続いた景気後退期から早ければ第3四半期にも脱け出す可能性があるとされている。インフレ率は前年比7.3%と2015年3月の16.9%でピークをうってから低下している。

ロシアのGDP成長率における農業分野の寄与度は4.4%と2003年からの間で最大の水準で、同分野の利益は2015年に45%も増加した。加えて肥料市場においてもそのような傾向が追い風となっている。ロシア農業省によると、今年1月~4月の農家による無機質肥料の購入額は、前年同期比で27.5%増加した。また、ロシアの大手肥料メーカーの一つであるフォスアグロの国内売上は、約2倍となった。

こういった農業分野における最近の成功は、欧米諸国による制裁に対抗する措置としてロシアが発動した食品の禁輸と、通貨ルーブルの下落によって引き起こされている。もう一つ重要な要因としては、民間セクターによる農業分野への投資が挙げられる。政府からの補助金もあり、新たな生産設備の開発や古い設備の改修を2014年以前から行っている。実際、2005年頃から徐々に農業分野の再開発が進み、2014年の食品禁輸措置スタート時には十分対応できる体制が整っていた。食品禁輸措置は国内メーカーにとって小売流通網へのアクセスを可能にしたが、これは生産量を増加させるための必要条件となるであろう。以前は専売制のもとで厳しい競争環境のなか、商品を陳列するためにはかなりの労力とコストが必要であったが、現在の状況は国内メーカーにとってかなり好都合となっている。

通貨ルーブルの下落は、輸出企業のなかでも特に穀物と植物油のメーカーに恩恵をもたらした。ロシアは世界最大規模の穀物輸出国となったが、植物油においても輸入国から世界でトップクラスの輸出国となった。さらに輸出先地域も拡大しており、例えば最近ロシアから日本へのとうもろこし輸出を開始している。

今年のロシアの穀物輸出量は、過去最高となるであろう。米国農務省によると、2016年の小麦輸出量は、ロシアが2,350万トン、米国が2,180万トン、カナダが2,050万トンと、ロシアが米国とカナダを抜いて世界1位になるとの見通しである。 原油価格の下落が輸送コストの大幅な低下につながったことに加えて、通貨ルーブルの下落によりロシアの価格競争力が増したことは確かであろう 。

食肉業界においても進展が見られる。2014年以来ロシアの食肉輸入は減少しており、昨年は鶏肉の自給自足を達成した。近い将来に豚肉も自給自足の達成が見込まれている。一方で食肉輸出は増加し 、特に東アジアへの輸出が増加傾向にある。

このような農業・食品業界の成長には、政府のサポートが重要な役割を担っている。2015年は補助金があるセクターの平均収益率が20%であったが、もし サポートがなければ11.5%となっていたとみられる。具体的な成果として、農業関連のホールディングカンパニー”Rusagro”は、昨年多くの製糖工場と油脂抽出施設を合併し世界で最も収益性の高い企業の一つとなった。また、ロシア最大の食肉生産企業である“Miratorg”の2015年における純利益は25%増加し、今年は更なる成長が見込まれている。

農業分野における成長に続いて、食品加工や化学の分野、さらにはトラクター等の農業機械やトラック等の輸送機器を製造する機械分野でも明るい傾向が見られる。ロシア農業機械生産者協会“Rosagromash”によると 、ロシア生産業者による穀物収穫機の生産高は倍増、トラクターは45%増、耕運機は21%増となった。また、大型トラックの今年3月の売上げは40%増を記録した。

上記に述べてきたロシア経済における変化は、エネルギー輸出依存から脱却し多様化に向けた構造的転換であり、これまで見られなかった新たな投資機会をもたらすであろう。しかしながら、いまだ残る構造上の不均衡やボトルネックは、これらの前向きな進展を中長期的に妨げる可能性もある。したがって、ロシア経済が安定した成長軌道を確かなものにするためには、そのような問題の解決に向けて政府の一貫した着実な取り組みが必要不可欠となる。

インベロ アドバイザーズ株式会社 代表取締役 アブジケエフ・タメルラン

執筆者のご紹介

 

インベロ アドバイザーズ株式会社
代表取締役 アブジケエフ・タメルラン

現ロシア連邦モスクワ州立大学卒業。米ステート・ストリート銀行、PIMCO等、米大手金融機関のアジア、米国、欧州拠点において複数の業務に従事した後、2010年に東京にて投資戦略コンサルタント業務を手がけるインべロアドバイザーズ株式会社を設立。また、同年には、サン・インベストメント・合同会社へもパートナーとして参加し、プライベート・エクィティ業務に従事し、現在に至る。 英オックスフォード大学にて、国際関係学修士課程修了。
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