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2016年5月26日

ロシア経済見通しの改定:2016年の回復は加速するも今後の成長は鈍化
―2017~2019年は停滞気味に―

ロシア経済開発貿易省は2016~2019年のマクロ経済見通しの改定値を公表した。2016年については若干改善されたが、2017~2019年については下方修正された。つまり、ロシア経済は予想以上に早く成長軌道に戻るが、今後数年の成長率は低迷し、停滞気味になる。そのような状況の中でも、ロシア中央銀行(以下、CBR)の政策金利を据え置く決定は理にかなっている。なぜなら、投資家に過度な期待を与えてしまえば過剰な投資を招き、健全な経済成長に戻るまでに時間がかかってしまうためである。

ロシア経済開発貿易省は、ベースシナリオでは2019年までの原油価格の平均を40米ドルと仮定しているが、保守的なシナリオでは2016年に25米ドル、2018~2019年には35米ドルと予想している。改定前の見通しでは、2016年のGDP成長率は-0.3%、2017~2019年の年平均成長率は+2.0%(同期間のEU経済成長率予想に近い)に上ると予想していた。しかし改定値では、2016年は-0.2%に改善するものの、2017年は+0.8%(改定前:+1.4%)、2018年は+1.8%(改定前:+2.3%)2019年は+2.2%(改定前:+2.5%) となった。

中でも重要な指標は2017~2019年の投資予想である。政府が発表した予想では、投資は2017年に+0.8%(改定前:+1.6%)、2018年に+3.0%(改定前:+3.7%)で2019年に+4.2%(改定前:+4.7%)拡大する。言い換えれば、2018~2019年まで投資意欲の高まりは見込めない。また小売に関しては、2018~2019年まで目立った成長は見込めないと考えている。なお2017年の小売売上高は前年比+1.1%(改定前:+1.5%)、2018年は2.6%(改定前:+3.5%)で2019年は+3.3%(改定前:+3.7%) と予想されている。

政府が改定した2016年の見通しはロシア経済の高い適応力を表している。ただ、それには良い面も悪い面もある。2016年の改善を受け、製造業は国内需要の減速の深刻さを軽視し、早期の景気回復を見込んでしまう可能性もある。現在の投資は鈍いうえに、そのリターンは低く、当初の期待とは裏腹に赤字に転落してしまった場合、投資家の失望を招き、経済も成長不振となりうる。

ロシア経済開発貿易省がこのような景気低迷を予想している中、先日(5月6日)の金利を据え置くCBRの決定は理にかなっている。2016年上半期のインフレ率の急激な低下はCBRの金融政策の直接的な効果というより周期的な変動だと考えたほうが妥当である。そのためこの状況下での利下げは、投資家の根拠のない楽観的な見通しを助長し、将来へ悪影響を及ぼしてしまう可能性がある。なお、CBRは四半期GDPがプラス成長に転じるのは年末になると発表したが、経済開発貿易省は2016年下半期になると予想している。

また、政策金利の水準と利下げの適切なタイミングに関する議論は非常に抽象的なものだ。ただ金利を11.0%から10.5%に引き下げたところで今年のGDP成長率を1.0~1.5%に押し上げる要因にはなるかどうかは疑わしい。さらなる投資と鉱工業生産の活性化には5.0~6.0%の利下げが必要であるが、CBRも政府もこのような大胆な行動に乗り出す準備はできておらず、0.25~0.5%の利下げが許容範囲だ。

まとめると、政府と中央銀行は景気回復まで予想以上に時間がかかると考えているが、原油価格の反発と過度な金融政策を基にした急激な経済回復と比較すると健全な考えだといえる。原油依存からの脱却と安定的で多角的な成長のためには構造的改革と効率化がますます重要になることは明らかだ。そのような意味では、改定されたマクロ経済見通しは市場に対し、ロシア政府が原油価格の早期回復に依存せず、困難で緩やかながらも、確実で健全な成長軌道を選んだという強いメッセージとなった。過去の過ちから学び、ロシア経済は今後この危機からさらに強く回復するという期待が膨らんだ。

インベロ アドバイザーズ株式会社 代表取締役 アブジケエフ・タメルラン

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インベロ アドバイザーズ株式会社
代表取締役 アブジケエフ・タメルラン

現ロシア連邦モスクワ州立大学卒業。米ステート・ストリート銀行、PIMCO等、米大手金融機関のアジア、米国、欧州拠点において複数の業務に従事した後、2010年に東京にて投資戦略コンサルタント業務を手がけるインべロアドバイザーズ株式会社を設立。また、同年には、サン・インベストメント・合同会社へもパートナーとして参加し、プライベート・エクィティ業務に従事し、現在に至る。 英オックスフォード大学にて、国際関係学修士課程修了。
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