DWS欧州通信

2018年8月20日

「DWS欧州通信 第5回 ユーロ圏の通商政策動向やユーロ制度改革の行方は?」

ニッキン投信情報 2018年8月6日号掲載
【執筆】 ドイチェ・アセット・マネジメント 運用部 ポートフォリオ・マネジャー 吉田一貴

貿易関連の通商政策動向は、引続き欧州経済の懸念材料

 米中の貿易関係の緊張は一段と過熱感を強める様相を見せており、世界的にも貿易戦争に対する懸念が広まりつつあるように思われます。

 米国に関しては、340億米ドル相当の中国製品に対する25%の輸入関税を発動し、追加の160億米ドル相当に対しての措置も懸念されています。さらに、ドナルド・トランプ大統領は2,000億米ドル相当の追加関税の可能性についても言及し、中国からの輸入の全体額であるおよそ5,000億米ドル規模に対して関税をかけることも辞さないという強硬な姿勢を示しています。対して、中国も米国の農作物や、エネルギー関連、化学製品等を中心に、報復措置を講じる姿勢を明確にしています。

 今後の焦点としては、米中間の貿易緊張のエスカレートだけでなく、欧州や他地域との間でも貿易に関する通商政策動向の懸念が高まる可能性が挙げられます。米国が欧州連合(EU)製の自動車に対しても輸入関税の引き上げを示唆したことを受けて、一部の欧州自動車メーカーは米欧双方における自動車関税の撤廃について協議する姿勢も示している様ですが、欧州全体としてその様な交渉を米国に対して推奨していくかどうかは不透明な状況です。米国からの一部鉄鋼・アルミニウム等に対する関税実施を受けて、EUも報復措置で対抗する態度を明示しており、短期的には予断を許さない状況が継続するものと思われます。

統合深化、ユーロ制度改革への歩み

 貿易関連の政策動向や、政治及び地政学リスク等で市場の変動性が高まる中、欧州全体の安定化という意味で注目したいのが、「ユーロ改革」です。欧州では、各国の債務問題が深刻化した反省を踏まえ、財政面・金融面における統合に向けた動きを緩やかに進展させて来ました。単一通貨ユーロの下では、域内の金融政策は欧州中央銀行(ECB)により管理されているため、各国独自の通貨安政策によって、輸出競争力の改善等を図ることは出来ません。また、通貨が共通でも各国の財政状況は大きく異なり、債務水準が高い国では緊縮財政の継続を受けて「反ユーロ」や「反EU」的な機運が国内で広がり、結果的にポピュリズムの台頭等を受けて、域内の政治リスクが高まってしまうという事象もこの数年の間で問題となりました。

 そうした中で、ユーロ改革、具体的には、預金保険制度の共通化やユーロ圏共通予算の新設等に向けた動きが、今後どの様に進捗していくのかが注目されています。ただし、経済環境が異なる複数の国々が関係し、複雑な問題を取り扱うことを受けて、直近はこの欧州の統合深化に向けた「ユーロ改革」の議論も大きな進展を見せていない状況が続いています。EU首脳会議でも改革案が適宜協議されていますが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が積極的に提案している共通財務相の新設や共通予算の具体化等の改革案など、重要部分においての結論は先送りされているのが現状です。

 一方で、直近の首脳会議でも、EU域内の銀行破綻処理において単一破綻処理基金(SRF)の資金不足時には、欧州安定メカニズム(ESM)の資金を銀行救済にも活用出来るようにする点で合意がなされたことや、マクロン仏大統領とアンゲラ・メルケル独首相の2者間において共通予算に関連した意思統一がなされた点など、緩やかではありますが着実に前進している点等は評価されるべきと考えます。域内では他国の財政を支える等の財政統合に対する反対論は根強く残存しており、ユーロ非加盟国を含む北欧諸国においても対応に慎重な立場を示す国々が少なくありません。ユーロ圏域内における経済格差も引続き問題視され、ECBの金融政策も来年にかけて転換を迎えようとしている中、今後の更なる改革の進捗、欧州全体としての結束が期待されます。

※当コラムは2018年7月17日時点の情報に基づき執筆しております。

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執筆者のご紹介

    吉田一貴
    ドイチェ・アセット・マネジメント
    運用部 ポートフォリオ・マネジャー

    国内運用会社を経て2014 年入社。クライアント・ポートフォリオ・マネジャーとして債券プロダクトの運用に従事。一橋大学商学部卒業。

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