2018年8月29日

共通KPI基準で見るコスト・リターンとリスク・リターン!国内公募投信の上位20銘柄で見てみると…。

— 6月29日に公表された比較可能な共通KPIの概要と、「見える化」されるリターンについて理解する。— 投信コストは資産クラス(国内/海外、債券/株式)の影響大で、コスト・リターンの相関は見込みにくい。— アベノミクス相場でリスク・リターンは正相関も、リスクに見合うリターンが得られない時期もある。— 投資信託の評価は過去の一時点の運用実績だけでなく、数年後まで見据えた時系列分析が重要に。

金融庁は6月29日に、投信販売における「顧客本位の業務運営」を客観的に評価するための共通の成果指標(いわゆる共通KPI)を公表しました。「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIについて」という資料によれば、リスクや手数料に見合ったリターンがどの程度生じているかを長期的に「見える化」するための比較可能な共通KPIとして、以下の3指標が設定されています。

※:https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20180629-3/01.pdf


比較可能な共通KPI:3指標

①運用損益別顧客比率
投資信託を保有している顧客について、基準日時点の保有投資信託に係る購入時以降の累積の運用損益(手数料控除後)を算出し、運用損益別に顧客比率を示した指標。この指標により、個々の顧客が保有している投資信託について、購入時以降どれくらいのリターンが生じているか見ることができる。

②投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターン
設定後5年以上の投資信託の預り残高上位20銘柄について、銘柄毎及び預り残高加重平均のコストとリターンの関係を示した指標。この指標により、中長期的に、金融事業者がどのようなリターン実績を持つ商品を顧客に多く提供してきたかを見ることができる。

③投資信託預り残高上位20銘柄のリスク・リターン
設定後5年以上の投資信託の預り残高上位20銘柄について、銘柄毎及び預り残高加重平均のリスクとリターンの関係を示した指標。この指標により、中長期的に、金融事業者がどのようなリターン実績を持つ商品を顧客に多く提供してきたかを見ることができる。

(出所:金融庁資料を基にドイチェ・アセット・マネジメント(株)資産運用研究所が作成)


これらはいずれもリターンを「見える化」することに主眼が置かれており、金融庁としてもいくつかの改善点があることを認識しつつも、それでも開示することの意義が大きいと考えているものと思われます。例えば、①の「運用損益別顧客比率」については、金融機関のデータ管理のシステム上の制約から、基準日までに全部売却・償還された銘柄が含まれていないため、利益確定の売りが反映されず、実際よりもリターンが低く出ている可能性を指摘しています。

なお、①「運用損益別顧客比率」については、各顧客の保有する投資信託とファンドラップのそれぞれについて、購入当初(取引開始)まで遡及して損益を開示することとしており、ファンドのパフォーマンスに加えて、投資タイミングの優劣が合わせて示されることになります。一方で、②「投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターン」と③「投資信託預り残高上位20銘柄のリスク・リターン」は、各金融機関の預り残高上位20銘柄について開示されますが、ここで用いるリターン(及びリスク)は過去5年間の実績となっています。「共通KPI」は各販売会社が自社で取扱いのあるファンドについて公表するものですが、今回のドイチェ・リポートHighlightsでは、②のコスト・リターンと③のリスク・リターンについて、国内公募投信全体のデータを使ってその状況を確認したいと思います。

国内公募投信残高上位20銘柄

国内公募投信残高上位20銘柄のコスト・リターン

まずは②のコスト・リターンについて検証します。上のチャートは、国内公募投信(ETF、上場REIT、公社債投信、ラップ口座専用ファンド除く)における「投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターン」を示したものです。なお、共通KPIの定義では、コストは「販売手数料率(消費税込み)の1/5と信託報酬率(同左)の合計値」とされていますが、販売手数料率はゼロ~目論見書上の上限まで幅があり、各販売会社によって異なるため、ここでは考慮していません。以上の前提で、上位20銘柄の加重平均で見たコスト(信託報酬相当)は1.49%、リターン(2018年6月末時点、5年間)は年率8.5%となっています。コストについては、国内資産に投資する商品は低く、海外資産に投資する商品は高い傾向があります。また、債券を投資対象とした商品は低く、株式を投資対象とした商品は高い傾向があることも確認できます。

金融庁の「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIを用いた分析<対象:主要行等9行、地域銀行20行>」では、コスト・リターンの関係について「両者に明瞭な関係が認められず、コストに見合ったリターンは必ずしも実現していない」と指摘しています。上のチャートは国内公募投信全体のデータですが、販売会社毎のデータであっても、個別ファンドのデータであっても、コストとリターンの関係で言えば、投資対象となる資産クラスの影響を強く受けるため、そもそも両者の関係で高い相関は出にくいものと思われます。コストに見合ったリターンの有無を見るためには、日本株ファンドに限定するなど同じ資産クラスで比較する必要があるでしょう。続いて、③のリスク・リターンについても確認します。

国内公募投信残高上位20銘柄のリスク・リターン

上のチャートは、国内公募投信における「投資信託預り残高上位20銘柄のリスク・リターン」を示したもので、上位20銘柄の加重平均で見たリスクは年率12.4%、リターンは年率8.5%となっています。2013年7月~2018年6月の5年間は、アベノミクス相場による円安・株高の恩恵を受けるなど、金融市場環境の良好な時期が大部分を占め、総じてリスクに見合ったリターンが実現できていたと言えます。付け加えるとすれば、株式が債券よりも好調だった時期なので、株式ファンドの残高の比重が大きい販売会社はシャープレシオ(=リターン÷リスク)も高めに出たものと思われます。

ただし、5年という長期で見ても、リスクに見合ったリターンが得られない相場環境もあるということを認識しておくことは重要です。以下は、これまでの分析の基点である2018年6月からちょうど5年前倒しした2013年6月末時点で作成した5年間(2008年7月~2013年6月)のリスク・リターンのチャートです。2008年の金融危機、2011-12年の欧州危機を含んだこの時期は、株式ファンドを中心に運用成績が低迷しており、リスクに見合ったリターンが得られたとは言いにくい状況となっています。

国内公募投信残高上位20銘柄

国内公募投信残高上位20銘柄のリスク・リターン

2013年6月末時点では、リスク水準が10%を下回ったのは1銘柄のみで、上位20銘柄の加重平均は、リスクが年率22.2%に対して、リターンは年率2.1%にとどまっています。そういった意味では、2018年6月末時点の上位20銘柄の加重平均で見たリスク(年率12.4%)は、金融市場の安定していた時期に評価したリスクであり、投資信託全体のポートフォリオとしては、よりリスクを抑える必要があると言えそうです。

2018年1月からスタートしたつみたてNISAにおけるアクティブ運用を行う投資信託の商品要件で、「信託開始以降5年経過」していることが求められているほか、今回の共通KPIなど規制環境の変化に応じて、5年の運用実績を重視する流れが今後は強まっていくと予想されます。ただし、共通KPIの「コスト・リターン」及び「リスク・リターン」分析は、リターンを「見える化」する一方で、どの「5年間」をとるかで結果は大きく異なります。また、共通KPIの②と③については、販売額ではなく残高上位20銘柄を分析対象としていることから、「足元の販売状況が反映されないという指摘も考えられる」点が、金融庁が公表した資料(「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIについて」)でも指摘されています。つまり、販売会社の過去の実態を強く反映したものとなる点には注意が必要でしょう。共通KPIは各販売会社が顧客本位の資産運用を追求した結果を振り返るための重要な指標となるものですが、投資信託を評価するうえでは、過去の一時点の運用実績だけでなく、数年後までを見据えた時系列分析が重要になると言えそうです。

※設定後5年以上の銘柄における残高上位20銘柄(ETF、上場REIT、公社債投信、ラップ口座専用ファンド除く)

 

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