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2019年7月11日

投資家の皆さまへ


貿易協議から貿易戦争へ、そして協議再開か


米中間の貿易協議は当面の経済に大きな影響を与えるものではないものの、
我々の戦略的見通しには重荷となっています。



4月には市場関係者の間で米中間の貿易協議の解決に向けた期待が高まりました。しかし、様々な報復措置の応酬もあり、問題は衝突から貿易戦争という新しい次元に移ってしまったのです。米国側は、この衝突が単なる輸入関税や貿易黒字の問題なのではなく、テクノロジーをめぐるグローバルな覇権争いであるということを明確にしています。危機が高まる中、米中双方の最近の発言や行動によって、お互いの対面を保ちつつ沈静化を図ることがいっそう難しくなっています。中国側は「主権の侵害」や「中国の名誉に対する攻撃」に抗議する声明を出しており、中国政府が協議の激化を認めていることを示しています1。 一方で、米国による追加的な制裁は明らかな挑発行為となります2。 トランプ大統領も短期的な解決に関心を持っていないと我々は考えています。衝突がくすぶり続け、中国に対して厳しい態度を取れば、それだけ再選の可能性が高まると考えられるからです。米国では現在、中国に対する締め付けを緩めるべきではないという党派を超えた社会的コンセンサスができているのです。

よって、2019年は米国と中国が(テクノロジーの)グローバルな覇権をめぐって初めて意図的に戦った年として歴史に残るという可能性も否定できません。多くの米国の政治家も中国の政治家も、もはやこの見方に異を唱えることはないでしょう。では、資本市場はどのように見ているでしょうか?5月後半の数日間に大きな売りがあったにもかかわらず、取引所の中には月末時点で依然として史上最高値に近い水準で取引していたところもありました。このような平穏さは希望的観測なのでしょうか?または、貿易協議からくる政治的な雑音が経済に対する実際的な影響に比べると大きすぎるということなのでしょうか?世界貿易は不可欠なものですが、貿易協議によって引き起こされた世界貿易の鈍化は、当面の世界経済にあまり大きな影響を及ぼしていません。ほとんどの貨物が迂回貿易されているためです。また、中国と米国の外国貿易は国内総生産(GDP)のそれぞれ20%と13%を占めるにとどまっているように、両国の経済が比較的閉鎖的であることからも、少なくとも短期的には、世界の二大経済である両国に対する影響は考えられているほど深刻ではないものとなります。米中そのものが激突によってあまり傷を受けていない中で、より開かれた経済である韓国やドイツは、不幸な傍観者として打撃を受けています。一方で株式については、前回の急落でも見られたように、個別セクターや個別企業が打撃を受けています。ただ、長期にわたる政治的解決がますます難しくなると考えても、マクロ経済のレベルではグローバル成長は今後12カ月の間は維持され、大きく崩れることはないでしょう。

懸念すべきは、今までと今後の制裁が及ぼす直接的な影響なのではなく、間接的な影響のほうです。貿易戦争の深刻化を受けて、消費者や企業の心理が悪化する恐れがあります。製造業関連のデータにはその兆候が既に表れており、貿易協議の結果として製造業関連のデータはこの数カ月で悪化し続けています。

一方で消費者の購買意欲は今のところ高止まりしています。ただし、これも関税が価格の引き上げにつながると水を差されることになるでしょう。財政状況も貿易問題の間接的な影響を受けることになります。リスクプレミアムが高まると財政状況が悪化し、株式市場の下げ圧力となることもあるでしょう。しかし、市場に対する打撃にはメリットもあります。つまり、米国株式市場の下落が米国大統領の非伝統的な政策の修正に対する最も有効な手段となっているのです。これは「トランプ・プット」とも呼ばれるものです3

我々は経済全般に対して引き続き楽観的な見方をしています。前よりは若干警戒するようになったものの、今年の成長予測については0.1%の引き下げにとどめ、3.4%としています。我々の見通しでは、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利の追加引き上げを手控え、インフレ圧力は引き続き穏やかなものに留まるでしょう。資本市場は理想的なゴルディロックスシナリオの状態に戻れることになりそうです。しかし我々は熱狂からは程遠いところにおり、これは貿易戦争だけが理由なのではありません。欧州においては、英国の欧州連合(EU)離脱、イタリアの予算をめぐるEUとの対立、ポピュリスト政治といったものが大きな懸念です。また、中国では再び経済を支えるための景気刺激策が必要であり、中国と米国の企業セクターの債務状況は危機に対処できるほど盤石にはなっていません。よって、我々の楽観的なメインの予測シナリオは今までよりはリスクにさらされるようになっているのです。今後数カ月で市場は神経質になると予測しています。このような理由から、我々はインカム収益に注目しています。

個別のアセットクラスについて見ていきましょう。米国債の利回り上昇は期待しておらず、欧州債の利回りは若干上昇すると見ています。各国中央銀行が政策金利について慎重なペースで対応すると発表していることからも、米国債のリスク・リターン特性は引き続き好調です。欧州債については低金利や場合によってはマイナス金利ということからも好調であるとは言えませんが、市場が悪化した場合のプロテクションにはなります。我々は社債に対して引き続き前向きな見方を保持していますが、米国ハイイールド債については非常に選択的になっています。新興国債券に対しても引き続き前向きですが、このアセットクラスは短期的に貿易協議のマイナスの影響を受ける可能性があります。米ドルについては、今後12カ月は横ばいトレンドになると予測しています。一方で中国元については、貿易黒字の縮小が下げ圧力となる可能性もありますが、中国政府は通貨の大幅な下落を許容しないと想定しています。株式は低金利環境からの恩恵を当然受けるものですが、今春の上昇以降、ほとんどの指標が適正なレベルに近づいていると考えています。株価上昇の可能性は、現在、金融危機以降最低レベルにあると考えています。一方で地域的には、米国株と新興国株を選好します。


我々の今後12カ月の見通しにつきましては、「DWSの見通し」をご覧ください。


1 記事の例:https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3011832/arrogant-demands-us-invade-chinas-economic-sovereignty-state
2 中国個別企業に対する様々な制裁;米国と台湾の関係強化
3 いわゆる「グリーンスパン・プット」に由来
ステファン・クロイツカンプ チーフ・インベストメント・オフィサー
ステファン・クロイツカンプ
チーフ・インベストメント・オフィサー


“貿易戦争の激化の勢いがとまらず、主要プレイヤーでさえも収拾を付けられなくなる恐れが出ています。今までに取られた措置はおそらく意図していなかった結果を生み出しており、その影響もはっきりとはしません。この問題が我々の見通しに大きな重荷となりつつあります。“

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