2020/11/05 DWSリサーチ

米国インフラデット:アジアにおける保険会社の場合

プライベート・インフラデットは、アジアの保険会社にとって魅力的な特徴を持っています。

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レポートの要約

 

なぜアジアの保険会社はプライベート・デットへ投資するのか


欧州の保険会社だけでなく、アジアの保険会社の多くにとっても低金利がニューノーマル(新常態)となっています。日本は過去20年以上にもわたり低金利を経験しており、他のアジア諸国においても近年は金利が大幅に低下しています。このような状況に加え、自国に適切な投資対象が不足することからも、アジアの保険会社の多くは投資ポートフォリオに占める海外資産への投資比率を増やしており、米国社債へのアロケーションを大幅に引き上げています。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機に対して米連邦準備制度理事会(FRB) が講じた措置の結果、足元では米国においても金利は大きな圧力にさらされています。さらに、規制の強化とヘッジコストの増加により、アジアの保険会社が米国の上場社債へのアロケーションを保つ魅力が薄れてきています。そのため、プライベート資産の非流動性プレミアムや複雑性プレミアムは、より高い利回りの源泉として期待されています。

ライアビリティー(保険債務)重視の運用をする投資家は、一般的にプライベート資産の中でもプライベート・デットへの投資を選択します。そのため、アジアの保険会社の多くは民間企業に対するダイレクト・レンディングに加えて、インフラや不動産といった資産を担保にした資産担保証券(ABS)を活用し始めています。そして、次のような状況を鑑みてこのトレンドは当面継続すると考えられています。

金利低下:
コロナ危機により、市場がFRBに対して想定していた利上げのサイクルに狂いが生じています。コロナ危機が長期化し、世界中の中央銀行が低金利政策を堅持し続ける中で、投資家は金利の更なる低下とその長期化という状況により身動きが取れない状態です。更に、アジアの保険会社の多くは、過去の高い金利水準を前提とした保険契約が足枷となり逆ザヤ状態に陥っており、より高い利回りの追及に拍車がかかっています。

国内債券市場の限界:
保険会社は従来、アセット・ライアビリティ・マネジメント(ALM)やライアビリティー・マッチングにおいて自国の債券市場に頼っていました。しかし、アジアの生命保険市場の中には、その様な債券需要がその国の社債市場の何倍にも上るという状況が発生しています。日本の保険市場がこの典型例であり、生命保険の資産規模は国内社債市場の25倍もの規模になっています。台湾や韓国の生命保険会社も同様の課題に直面しており、生命保険業界の資産は国内社債市場の10~15倍に上ります。 その結果、保険会社は質の高い利回りやALMに合致するデュレーションを持つ投資対象を求めて、海外資産やプライベート資産に向かうことになると考えられます。

対米ドルヘッジコストの上昇:
米ドルに対する需要の高まりを受けてアジア太平洋のほとんどの市場では対米ドルのヘッジコストが上昇しています。2020年3月に市場のボラティリティが最も高まった時点で、対米ドルのヘッジコストは、台湾ドルでは4%、韓国ウォンでは2%まで上昇しました。これらの市場における米ドルへの需要の高まりによって、為替スワップ市場のベーシスがマイナス方向に拡大し、米ドルのヘッジコストを高止まりさせています。よって、保険会社は海外投資に際して、ヘッジコストの上昇分を補うために、より高い利回りを確保する必要に迫られています

潜在的な資本効率の高さ:
アジアのリスクベース資本(RBC)の規制枠組みでは、多くの場合、無格付け債に投資適格債とハイ・イールド債の中間程度の信用リスク・チャージまたは信用ショック・スプレッドが生じます。よって、プライベート・デット投資は、同じ利回りのハイ・イールド社債よりもリスク・チャージが少なくなる可能性があり、このことから資本効率を高められる余地があると考えられています。更に、インフラや不動産などの実物資産を担保とするプライベート・デットについては、デフォルト率が潜在的により低く、デフォルトの際の回収率も潜在的により高いことから、キャピタル・チャージが低くなる場合があります。プライベート・デット取引における非流動性リスクや複雑性リスクに対しては、通常は追加的なキャピタル・チャージは発生しません。

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