2026/06/11 CIO View Quarterly 新着

ネガティブな時代の中のポジティブ要因

ミクロ要因がマクロ要因を上回っています。イラン戦争やインフレは、もはや人工的ではなく実体を伴う利益を生み出しているAIブームに よって、市場では影が薄くなっています。市場はさまざまな意味で二極化しています。

2026年6月号

この記事は約4分で読めます。

“私たちはこれを二極化と呼んでいます。市場は二つの軌道に向かっています。古い技術になぞらえて言えば、AIという列車は勢いよく前進しており、ますます多くのセクターが乗り込んでいます。しかし成長は、インフレが発し始めているホルムズ海峡というボトルネックに直面しています。短期から中期では、依然として多くがイラン危機に左右されます。しかし12か月後には、この危機は過去のものとなり、経済と市場が前進できるようになると私たちは見ています。“

Vincenzo Vedda

ヴィンチェンツォ・ヴェッダ

サプライズ、ネガティブな展開、そしてポジティブな見通し――。2月26日と5月19日の当社ストラテジー会議の間に起きたことは、このように要約できるでしょう。米国とイスラエルによるイラン攻撃は、当社の12か月見通しに二つのネガティブな影響を大きく与えました。私たちはほとんどの経済圏の成長率を やや下方修正し、インフレ率をやや上方修正せざるを得ませんでした。その結果、中央銀行は相当程度、政策運営の余地(すなわち利下げ余地)を失いました。サプライズの一つは、ホルムズ海峡が当初懸念されていたよりもはるかに長く、ほぼ閉鎖状態にとどまっていること、そして実効性のある和平合意が依然として見通せないことです。しかし同時に驚くべきなのは、それにもかかわらず世界経済が非常に高い耐性を示していることであり、その証左が第1四半期の力強い企業業績です。それはテクノロジー分野に限られません。

その結果、当社の最新の資本市場見通しは、驚くほど2月時点の見通しと大きくは変わっていません。当社の前向きな見方は、一方では、コロナ禍やウクライナ戦争の際にも示されたように、経済主体が変化する状況にいかに迅速に適応できるかというその強靭さに基づいています。もう一つのポジティブ要因は、AI ブームの勢いがなお驚くほど強いことです。例を二つ挙げると、第一に、2026年における主要ハイパースケーラー5社の設備投資額に関するアナリスト予想は、 12か月の間にほぼ倍増し、8,000億米ドル近くに達しています。第二に、米国の今年の経済成長の3分の1はAI投資によって押し上げられる可能性があります。 特にAI関連投資がますます多くのセクターに広がっていることから、この勢いは衰えていないように見えます。

もちろん、リスクが不足しているわけではありません。純粋に市場テクニカルの観点から見ると、米国テック大手の1社(特にSpaceX、Anthropic、OpenAI)がIPOに失敗すれば熱狂に水を差す可能性がありますし、AI投資が持続可能な需要を大きく上回る供給能力を生み出していることを示す兆候も同様です。ホルムズ海峡の封鎖が秋まで長引けば、当社の見通しは危うくなりますし、依然として抑制されていない財政赤字、とりわけすでに政府債務水準の高い 米国において、国債市場への懸念が強まることも同様です。

2027年6月見通し:インフレ鈍化、企業利益拡大、資産価格上昇

イラン戦争によって引き起こされたようなインフレや成長への懸念は、当初は資産価格上昇の安定した土台には聞こえません。原油価格ショックは価格に 直接影響し、インフレリスクを高止まりさせます。同時に、エネルギーコストの上昇が消費と投資の双方を抑制するため、成長への重しにもなり始めています。しかし、当社の2027年6月時点の価格目標は、その先の12か月間に対する市場期待に基づいています。その頃には、イラン戦争に起因するインフレ圧力は 大きく和らぎ、インフレ率はすでに低下基調にあると私たちは考えています。その頃には、供給網の混乱による経済の逆風も平準化しているはずです。 ただし当面は、イラン戦争をめぐる不確実性が市場にさらなる変動をもたらす可能性が高いでしょう。

商品価格の低下に伴い、中央銀行の政策余地は拡大する可能性。債券のトータルリターンは魅力的

1年後のブレント原油価格を1バレル82米ドルと予想し、二次的なインフレ波及効果は管理可能で、経済成長も緩やかであるとの前提のもと、当社は債券に とって良好な環境を見ています。米国では、市場予想に反して、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げではなく利下げに動く可能性が高いと見ています。した がって、とりわけ短期ゾーンで債券利回りの低下を予想しています。ドイツ国債についても、特に短期ゾーンで利回り低下を見込んでいます。社債は引き続き強い需要に支えられており、当社はトータルリターンが魅力的だと見ています。ただし、国債に対するスプレッドがタイトであるため、バリュエーションの観点から失望を吸収できる余地は大きくありません。為替では、地政学的状況が不安定である限り、ドルはしっかり支えられると見ています。緊張緩和が進むなら、米ドルは多くの通貨に対して下落すると予想します。

株式では、AIブームの恩恵を受けているのはテックセクターだけではありません

株式市場の最も重要な牽引役は、引き続きAI関連技術です。テックセクターの力強い利益成長、ハイパースケーラーによる投資拡大、供給制約、そしてAI提供企業による製品の収益化成功の高まりが、この勢いを支えています。指数におけるセクター構成の違いは、今後も地域別の株式パフォーマンスに反映され続けると見ています。アジアと米国はAIブームの恩恵を不均衡に大きく受ける一方、より分散した産業構造を持つ地域は出遅れています。欧州株式もまた、近隣で続く二つの戦争の影響をより強く受けています。
当社は、新興国市場(韓国や台湾の半導体大手を含む)の評価を「ポジティブ」に引き上げました。日本は引き続き「ポジティブ」、米国は景気循環的に高い利益水準と高バリュエーションを背景に、引き続き「ニュートラル」です。セクターレベルでは、追加的なAI恩恵セクターとして公益事業を引き上げ、利益成長が期待に届かなかったヘルスケアセクターを引き下げました。

さらなる混乱の年には分散投資が求められる

ミクロ要因がマクロ要因を上回る――これは現在の市場環境を端的に表したものです。二つの戦争が続き、世界の貿易構造の分断が進むなかでも、市場 コンセンサスはMSCI ACワールド指数の利益成長率を約25%と見込んでいます。これは景気後退後の回復局面を除けば前例のない水準でしょう。したがって 当社は、バリュエーション倍率の拡大ではなく――実際、当社は目標PERを引き下げています――利益成長こそが株式市場の主たる牽引役になると見ています。 株式はまた、緩やかなインフレ環境から引き続き恩恵を受けています。一方、債券は現在、高いトータルリターンを提供しており、経済成長が予想以上に 弱まった場合には相対的なヘッジとして機能し得ます。金や、たとえばエネルギー関連インフラのような代替投資も、さまざまなシナリオに対してポートフォリオの耐性を高める助けになると私たちは見ています。地域・セクター・資産クラスをまたいだ分散投資を維持すべきとの当社の考えは変わっていません。

特に明記のない限り、すべてのデータは2026年5月20日時点のBloomberg Finance, L.P.によるものです。

投資関連情報

■当サイトは、情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品の推奨や投資勧誘を目的としたものではありません。当サイトは、信頼できる情報をもとにドイチェ・アセット・マネジメント株式会社が作成しておりますが、正確性・完全性について当社が責任を負うものではありません。当サイト記載の情報は、作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。

CIO View