2024/09/30 CIO View Quarterly 新着

依然として楽観的だが、期待は控えめ

欧州も中国もそれぞれの本領を発揮しているとは言えず、市場の持ち直しは再び米国、特に米国の 消費者にかかっています。我々のコアシナリオではそれが可能だと考えています。

2024年9月号

依然として楽観的だが、期待は控えめ

この記事は約4分で読めます。

“現時点の不透明感が高いこともあって、10年物米国国債の1年後のリターン予想は答えにくい質問です。米国経済はこれまでの利上げにも関わらず堅調さを保っているのでしょうか、または、これまでの利上げを受けて主要指数は経済の鈍化を示すようになるのでしょうか?また、足元の債券利回りの低下は、インフレ率の低下や経済成長に関する懸念のためなのでしょうか?米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げできるのでしょうか、または、利下げを余儀なくされるのでしょうか?現時点で、米国経済の現状を明確に説明するのは容易ではありません。ポジティブとネガティブの双方のシナリオが可能性としてあるのです“

Björn Jesch

グローバル・チーフ・インベストメント・オフィサー

投資家は神経質になっています。8月初めと9月初めに市場は急落しました。S&P500種株価指数のボラティリティ(VIX指数)は7月以降、過去12カ月の平均である15を下回っていません。債券のボラティリティ[1] は2022年以降低下しておらず、7月以降急激に上昇しました。さらに、8月には米国の逆イールドカーブ[2] がショートエンド側もロングエンド側も利回りは低下しました。人工知能(AI)に対する楽観がある中でも、米国株式市場で最も堅調なセクターがディフェンシブな公共事業であるという点も、神経質な市場心理を示しています。金1トロイオンスと等価交換できる原油が現在は約35バレルで、2年前の約2倍になっているという事実からも市場心理を読み取れます。原油価格が上昇するのは経済成長が加速している時であり、金価格が上昇するのは懸念が高まっている時です。

バリュエーションの高い市場が景気低迷に向かっているという状況のため、こういった懸念には正当な理由があると我々は考えます。米国経済はこれまで予想を上回って持ちこたえてきましたが、それでもなお、警告を深刻に受け止めるべきマイナスの兆候を示す主要指数が揃っています。さらに、中国も欧州もそれぞれの本領を発揮していません。ドイツには明らかに問題があります。製造業がグローバルで好転しないため、経済が苦戦しています。実質収入が上昇していることから、我々は民間消費が追い風になることを期待していましたが、まだそうなっていません。しかし、我々はまだあきらめたわけではなく、ドイツと欧州の消費者心理が好転すると予想しています。とはいうものの、当面の間、どの地域もグローバル経済を進ませる強力なエンジンになりません。我々は、米国の経済成長率が2025年第2四半期に1.4% (前年比)に鈍化するものの、それでもこの堅調な成長率で鈍化がボトムアウトすると引き続き予想しています。一方で、38%という非常に高い確率で今後12カ月のうちに景気後退が起きるとも予想しています。リスクは依然として存在しています。

こういった解説は励みにならないことでしょう。我々は9月初めに、2025年9月末時点の予想を作成する戦略会議を開催しました。この会議では以下のようなポイントが検討すべき課題として取り上げられました。米国経済の鈍化はそれまでに本当に終わっているのでしょうか?米国大統領選後、米国の高い公的債務水準のせいで新政権は財政政策を縮小せざるを得なくなり、幻滅が訪れるのでしょうか? または、米国経済は既に好転しており、金利上昇につながるのでしょうか?

我々の評価に基づいたコアシナリオは、最悪のリスクを避けられる可能性が高い、というものです。我々は若干の経済鈍化と、その後の控えめな回復を予想しています。インフレ率が大幅に低下していることから、米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州各国の中央銀行は利下げを実施できるでしょう。我々は、25ベーシスポイントの利下げが欧州中央銀行(ECB)により5回、FRBにより6回(そのうち1回は9月に予想されている利下げ)あると予想しています。つまり、短期国債の利回りは低下するものの、長期国債の利回りは若干上昇します。しかし、スタート地点の利回りが高いため、主要国債すべての合計利回りは引き続き明らかにプラスの領域になります。我々は引き続き中期年限の国債を選好します。また、我々は引き続き社債が有望と見ています。経済成長が弱含んでいるフェーズでは、我々は特に欧州の投資適格債券を選好します。通貨については、今後12カ月間で重要な通貨ペアに大きな動きはないと予想しています。この点は米国大統領選の後、特にドナルド・トランプ氏が勝利すると変わる可能性があります。しかし、我々は民主党が大統領選を制する可能性が高いものの、上院は共和党の手に落ちるという判断を堅持します。つまり、新政権による政策の自由度はかなり限定されることになります。

我々は米国経済の目立った鈍化や金利に関するショックはないと予想しており、その場合、株価は引き続き若干の上昇トレンドを伴いつつ横ばいになるでしょう。株価を支えるのはやはり米国消費者です。堅調な企業業績(我々は今後12カ月で10%の伸びを予想)は今までのところ株価のダウンサイドリスクを和らげています。安定的な労働市場と中央銀行による利下げ期待も追加的な下支えになっています。米国に対する欧州のバリュエーションのギャップが記録的に高いことから、グローバル全体で我々は若干欧州地域を選好します。米国の方が経済成長の機会が大きいものの、欧州では特にバリュー株や小型株に投資妙味があります。一方で、日本では長年にわたってデフレが続いた後、インフレや企業改革が実を結びつつあるようです。アジア新興国では、一握りのセクターを除いて、我々は基本的に中国以外に目を向けています。セクターベースでは、かなり株価が上がってしまった通信サービスセクターを中立に引き下げました。たとえばAI半導体などの大型買収の投資計画を見ると、AIは依然として力強さの大きな源泉ですが、市場はAIの収益化スピードに疑問を持ち始めるようにもなっています。ただし、より古いセクターであるヘルスケアは、適度なバリュエーションでうまく成長しており、今回の米国大統領選の争点にならなさそうです。我々はヘルスケアをオーバーウェイトとしました。

オルタナティブ資産においては、我々の金価格の予想は1トロイオンスあたり2,810米ドルであり、これは中央銀行による購入の継続を反映しています。ブレント原油先物価格の予想は1バレルあたり80米ドルであり、これは供給サイドが不足しないことが前提になっています。不動産価格は安定化し、場合によっては上昇するでしょう。物流不動産や住宅不動産はすべての地域において構造的な需要が堅調なことから恩恵を受けています。また、企業の資金調達源として人気が高まっているプライベートローンにもリターン上昇余地があると我々は見ています。

全体として見れば、長く続くものの覇気に欠ける経済拡大局面に入っているようで、これは大半の金融資産にとっては好ましい状況です。しかし、我々が期待しているコアシナリオには大きなリスクが存在しており、我々は引き続き幅広い投資分散に注力します。たとえば、配当の高い銘柄や比較的リターンの高い社債などを通して分散投資のアプローチを取ると、資本市場の環境が冴えない局面でも手堅い収益を得られることにつながります。また、我々が2025年に予想している経済成長と企業収益の拡大からも恩恵を受けることができるでしょう。

原題:Still optimistic but with modest expectations

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