“現時点で投資家にほとんど不満はないでしょう。債券市場には適度なリターンがあり、多くの地域で利下げサイクルが始まりました。株式市場を見ると、特に米国テクノロジー銘柄はAIブームの恩恵を受けており、欧州企業は景気循環を受けてさらに上昇しています。地政学的な危機が増大しなければ、我々のコアシナリオでは一桁台半ばから後半のリターンが見込めると考えています“
危機モードは過ぎ去り、世界経済は正常に戻りつつあります。世界経済成長は3%近辺に落ち着きつつあり、我々は今年の主要国/地域のインフレ率は3%を下回ると考えています。コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻による「異常な」時期、さらにスタグフレーションや完全な景気後退に対する恐れが過去のものとなり、今はまさに「ゴルディロックス」と呼ばれる適温経済なのかもしれません。実際のところ、我々が最近開催した投資戦略のミーティングでは近年のように議論が紛糾することはありませんでした。議論に最も長い時間を費やしたのは、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げが今後12カ月で3回になるか4回になるかでした。とはいうものの、この「正常化」に違和感を覚える人も多いことでしょう。今から3カ月後に、次のような話をすることになるかもしれない、と不安を感じるのです。「3カ月前には利下げの回数を話し合っていましたね。でもそのすぐ後に、米国の債券市場も株式市場も不動産市場も大暴落しました。そしてそれは、地政学的な危機が悪化し、場合によっては新しい危機が出現しているただ中で起きたのです。」
世界の主な問題は明らかです。1. 米国株式市場の好調は一握りの企業業績に左右されています。2. 米国大統領選はたちの悪いサプライズになる可能性があります。3. 誰が次期大統領になっても、米国の公的債務水準は改善の見通しがないままに高まり続け、米ドルに背を向ける国が増えています。4. 現在の高水準の金利が企業倒産や個人消費の抑制につながる可能性があります。5. さらに、欧州の選挙をはじめ、フランスの突然の解散総選挙などによって、欧州連合(EU)が不安定になるでしょう。
しかし、市場がこういった問題を無視して上昇し続けるにはそれなりの理由があります。1. 米国大手テクノロジー企業の株価上昇には、収益の増加が伴ってきました。我々は2025年にこれらの企業の収益がさらに20%増加すると予想しています。2. また、米国大統領選の結果が僅差になり、連邦議会が割れると我々は見ています。よって、次期大統領の政策の幅も、おそらく悪影響の度合いも限定的になるでしょう。3. 記録的な債務水準にも関わらず、米国への投資を他に振り向けようという兆しはありません。米ドルは堅調で、政府の債務水準が高いにもかかわらず米国国債は旺盛な需要に満たされ潤沢に供給されています。米国金融市場は活況を呈しています。4.米国では特に、企業と住宅所有者の債務構造が2007年と大きく異なっています。住宅所有のための借り入れの割合は以前より小さく、債務の大半は長期固定の低金利です。5. 欧州の選挙で極右政党は躍進できず、議席を減らした国さえありました。フランスでルペン氏が率いる右派の国民連合が勝利する可能性は低いと我々は考えています。しかし、最大の地政学的リスクであるウクライナの戦争について、先行きは全く分かりません。
我々の今後12カ月の見通しには両睨みが必要でしょう。順調な人工知能(AI)に対する熱狂から生まれる米国の前向きな勢い、現時点で景気後退に陥っていないこと、さらには欧州やアジアにおける経済回復といった点を無視することはできません。しかし、単純に過去数カ月からこの先を推定することもできません。米国経済が鈍化する兆しは増えています。貿易摩擦は改善するどころか悪化しており、株価の割高感は強まっています。幅広い分散投資を通じてあらゆる偶発的な出来事に備えることが重要である、というのが我々の見解です。
我々の投資の見通しにとってこれはどのような意味があるでしょうか?我々は、欧州中央銀行(ECB)とFRBによる今後3回の利下げを予測しています(今年中にECBが2回、FRBが1回)。その結果、国債のイールドカーブがスティープ化することになります。よって短期年限の価格がさらに上昇するため、このセグメントを我々は選好します。社債について、我々は引き続き欧州の投資適格債券を選好し、新興国のハイ・イールド債券のセグメントにも投資妙味があると考えます。株式には一桁台後半のリターン余地があり、米国でこういった堅調な収益拡大を見せるのは引き続きテクノロジーセクターになると見ています。AIとテクノロジーが行き詰まると、見通しは悪化するでしょう。我々はバリュエーションマルチプルがさらに上昇する余地はないと考えています。バリュエーションマルチプルも利益率も既に高水準にあるためです。米国テクノロジー株との釣り合いを取るために、我々は特に欧州株式に注目しています。また、分散投資のために引き続き金にも目を向けています。
悲観的な見方をすれば、現在の投資環境は嵐の前の静けさです。楽観的な見方をすれば、過去の危機にはうまく対処できており、経済は引き続き順応していけるだろう、と言えます。我々は概ね楽観的な見方をする傾向がありますが、リスクを見て見ぬふりをしているわけではありません。