“我々は2025年が投資家にとって全体的に良い1年になると予想しています。インフレ率の低下、経済成長の正常化、中央銀行による利下げが資産クラスの多くを下支えするためです。ただし、株式のバリュエーションを見ると、ネガティブサプライズ(予想外の悪材料)は限定的であるものの、米国大統領選の結果、まったく予想できない1年になると考えるべきでしょう。あらゆることに備える、というのが我々のアプローチです“
私は2013年からDWSに勤めていますが、チーフ・インベストメント・オフィサーへの就任がこれほど心躍るタイミングはないでしょう。「心躍る」というのは、挑戦することへの期待や楽観という意味合いも含んでいます。間もなく2025年になります。我々投資家にとって今年は非常に甘やかされた市場でした。 2024年の年初来、グローバル株式は20%を上回って上昇してきました。2022年秋につけた底値からは40%近く上昇しています。金と銀は2024年に25%以上も上昇し、社債も好調です。来年、これ以上何を望むことができるでしょうか?我々は2024年、2025年、2026年のグローバルの国内総生産(GDP)の伸びを3.1%と予想しており、世界経済成長は好転しないと見通しています。今までに米国株式のバリュエーションは非常に高くなっており、この20年以上で初めて、リスクプレミアムがマイナスになっています[1]。米国国債については、特に長期年限国債の利回り低下のトレンドが9月に既に崩れ始め、ドナルド・トランプ次期大統領の再選で利回りは完全に反転しました。こういった状況にも関わらず、なぜ来年は投資家にとって良い1年なのでしょうか?ご説明しましょう。
米国の新大統領は「今まで通り」を望まない-予想しないことが起きるだろう
戻ってきた元大統領とどのように付き合うのか、というのが来年の大きな課題の1つです。確かに、特に株式市場はトランプ次期大統領の再選にすぐに前向きに反応しました。 しかし、トランプ次期大統領の計画には一部相反するものも含まれており、全ての計画を完全に実施できるとはほとんど考えられていません。たとえば、生活費の危機にうまく対処する、つまりインフレ率を迅速に低下させる、ということと、輸入関税の導入や移民の禁止は相反します。さらに、政権運営の進め方が今までとは違ってくることから、米国経済の一部のプレイヤー(特に外国人)が不安を感じ、一部の市場セグメントではボラティリティが高まる可能性があります。しかし、大半の投資家にとってボラティリティは望ましくないとはいえ、プラス方向にもマイナス方向にも振れる可能性があります。
経済の基本シナリオはポジティブ-資産クラスの多くにとっては好適な状況
2025年の投資にとってのプラス面が、我々の経済の基本シナリオのベースになっています。 世界経済に関しては、成長率、大幅に低下したインフレ率、金利といった点で、引き続き正常化に近づいています。主要国の経済は景気後退に陥らず、むしろ、安定的で穏やかに成長すると我々は予想しています。資産クラスの多くにとっては非常に良好な環境です。明確なGDPの低迷なしに株式市場が弱気になることはほとんどありません。我々は米国と欧州の双方において企業収益が拡大すると見込んでおり、それに牽引される形で株価は引き続き上昇するでしょう。ただし、米国の経済成長は引き続き大型テクノロジー銘柄によって大きく牽引される可能性が高く、我々はこういった銘柄が株式市場における優勢を維持すると予想しています。その結果生じる集中リスクへの全面的なエクスポージャーを避けるために、我々は地域選好を持っていません。我々は2025年末までにグローバル平均リターンが一桁台後半になると予想しています。しかし、特に足元でバリュエーションマルチプルが高いことから、株式は今後数年間一桁台半ばのトータルリターンになる可能性が高く、今の良い時期にこそ投資家は備えを怠るべきではないと我々は考えています。
債券市場では、2025年にイールドカーブがさらにスティープ化すると我々は予想しています。中央銀行による利下げのために、特に2年物債券についてこの動きが顕著になっているためです。2025年末時点のフェデラル・ファンド(FF)金利の我々の予想は3.75~4.00%、欧州中央銀行(ECB)預金金利の予想は2.0%です。現在の利回りや全体的に堅調な経済を考えると、社債は2025年も依然として投資妙味があるでしょう。しかし、これ以上スプレッドは縮小しないと我々は予想しています。我々はハイ・イールド債よりも投資適格債を選好します。
オルタナティブ資産は金融政策からそれほどの追い風を受けないでしょう。長期年限について金利が安定している一方で、たとえば住宅不動産などの多くの分野においてファンダメンタルが改善しつつあるためです。
金価格は2024年ほどの大幅上昇はないまでも、依然として適度に上昇すると我々は見通しています。いずれにせよ、難しい年になりそうな2025年において、金は良好なヘッジになる可能性が高いと我々は考えています。なぜでしょうか。我々の2025年の基本シナリオはポジティブですが、このシナリオを脅かす要因はかつてないほど幅広く存在しています。さまざまなことが起こり得ると我々は考えています。足元の地政学上の火種(ウクライナ、中東、台湾など)が今後どのように推移するのか、歯止めの利かない米国の債務増加に債券市場がどれぐらい耐えられるのか、AI投資への楽観がどこまで続くのか、そしてもちろん、おそらく型破りになりそうな米国次期大統領がどのような決定を下すのか、といったことに多くのことが左右されます。予測できないということが必ずしも全て悪いわけではありません。米国による変化を受けて、現在行き詰っている問題の一部にはプラスの新しい動きが生まれる可能性は否定できません。さまざまな資産クラス、投資スタイル、年限への幅広い分散投資が個別リスクを最低限に抑えることにつながるでしょう。