“年初来株式は堅調なパフォーマンスを上げてきましたが、今後数カ月間で現実と向き合うことになると我々は考えています。インフレ率と金利がピークアウトしつつ経済成長が力強さを欠く状況において、最も恩恵を受けるのは債券です。“
2020年から2023年に至るまでの期間と比較すると、この数カ月は政治や経済のショックという観点からはかなり平穏な期間になりました。しかし、今後12カ月間の世界経済や資本市場に関する我々の見方を策定する今年3回目のCIOデーでは特に白熱した議論がありました。市場の大きな不透明感は次の質問に要約することができます。インフレ率を低下させるためにどの程度経済を鈍化させる必要があるのか?労働市場はどのような役割を果たすのか?我々同様に最近ではデータを重視している中央銀行の反応はどのようなものか?債券市場はどの程度先まで見越しているのか?
金融緩和から量的引き締めへの転換、欧米との関係悪化を含めた中国の国内外におけるさまざまな問題、ウクライナの戦争 による欧州の不安定な状況など、世界中で大きな構造変化がいくつも起きているという事実を受けて、こういった質問はより複雑さを増しています。前向きな部分では、多くの国においてデジタル化や人工知能(AI)の進展によって経済成長の余地が高まる可能性があります。
我々の株式に対する見通しは、AIの動向の影響を受けており、米国株式市場でAIが果たしてきた役割は極めて大きいと言えます。これこそが、米国株式市場よりも欧州株式市場のリターンが高いと我々が考える大きな理由の1つです。さらに、マクロ 経済的な要因も欧州に有利であると我々は見ています。我々は米国が(緩やかな)景気後退に陥ると見通していますが、欧州は景気後退を免れると考えており、2024年の経済成長率は米国の2倍になると予測しています(欧州0.9%、米国0.4%)。同時に、米国は巨額の財政赤字にさらに苦しむ1年となり(我々の見通しは国内総生産(GDP)の5.6%)、巨額の米国国債を発行する必要に迫られるものの、米国国債に対する国外の需要が減少し債券利回りが上昇する可能性があります。[1]
株式市場が二極化していることも米国株式の問題です。主にITやメディア/インターネット関連セクターからなる米国の超巨大企業トップ7社は、今年AIブームから恩恵を受けたとよく言われています。ナスダック100は年初来約40%上昇しましたが、ダウ平均株価の上昇率はわずか4%[2] でした。つまり、グロース株とバリュー株のバリュエーションのギャップ、言い換えると、巨大テクノロジー企業とその他の企業の差がさらに開いたということです。米国テクノロジー企業はTMTセクターを除いた米国株式全体よりも47%割高で取引されていますが、この差の30年間の平均は20%でした。さらに、米国市場は欧州市場よりも56%、代表的なバリュー市場であるドイツよりも70%割高になっており、この差の30年間の平均はそれぞれ20%と18%でした[3] 。
今までの水準から見るとこのギャップは非常に大きく、我々が米国市場に対して慎重になっている理由はここにあります。米国超大型株の株価は軒並み、今後有意なアップサイドを生むには高くなりすぎています。
同時に、市場の牽引役はより割安なバリュー株にすぐには入れ替わらなさそうです。そうなるためには、米国、ユーロ圏、中国においてGDP成長率が現在の見通しを上回る必要がありそうです。我々は株式について相対的に以下を選好します。コミュニケーションサービスは、AIに対するエクスポージャーを有しつつ、株価水準が合理的で1株当たりの利益(EPS)成長率も2桁台です。消費財は足元で堅調な労働市場に下支えされています。さらに、欧州中小型株(SMID)も選好します。欧州は「バリュー株の中でも割安」であり、中小型株は特にS&P500種株価指数に対して大きくディスカウントされているためです。
株価水準を抑制しているのは、2009年以来となる実質金利です。米国のインフレ連動国債(TIPS)の利回りは現在約2%ですが、10年平均はわずか0.28%でした[4] 。我々は中央銀行による利上げサイクルが今年終了すると考えていますが[5] 、一方で、来年になると予測している利下げ[6]は暫定的な金利調整であって、全面的な緩和サイクルの開始にはならないでしょう。2024年までにインフレ率は大幅に低下しそうですが、中央銀行が中立金利に立ち戻るほどの低い水準にはならないでしょう。我々の中心的なシナリオは上述の通りですが、このシナリオは債券投資家にはポジティブです。 債券投資家は2008年以来[7] 目にしてこなかった金利から恩恵を受けており、さらに、債券価格の上昇につながる金利の若干の低下からも恩恵を受ける可能性があります。我々は長期債券よりも短期債券の金利が低下すると予測しており、つまり、2-10年のイールドカーブは今後 12カ月でフラット化すると考えています。我々の予測では、10年物米国国債の利回りは4.2%、同ドイツ国債は2.7%、2年物米国国債は4.35%、同ドイツ国債は2.7%です。年限に関しては、我々は現在2年物から5年物のセグメントを選好します。当初の利回りは似通っていますが、マネーマーケットなどの短期年限よりも再投資リスク[8]が低くなる(先送りされる)ためです。
我々は社債が国債に対して優れた金利プレミアムを生むと考えています。ハイ・イールド債券よりも投資適格債券をやや選好し ます。我々の予想より景気が低迷した場合でも投資適格債券のほうが回復力があるためです。
ただし、これまでのサイクルよりもファンダメンタルズが強固であることから、今後数カ月間、ハイ・イールド債券には若干の利回りのクッションがあると考えます。新興国債券は国によってまちまちですが、全体的には中国が足かせとなっているため我々はやや慎重であり、国債に対してわずかに社債を選好します。
オルタナティブ資産では、金に対する前向きな見方を維持しています。金は実質金利から大きな逆風を受けたにも関わらず、中央銀行の購入という下支えもあって、この12カ月間かなりうまく持ちこたえてきました。利上げは終了局面を迎えていますが、中央銀行による金購入は続きそうです。我々の金の目標価格は1トロイオンス=2,150米ドルです。原油は中国の需要の伸びが鈍化する一方で、米国とイランからの供給が今後12カ月で十分過ぎるほど増加するでしょう。よって、ベンチマークのブレント原油先物価格は来年にかけてほぼ横ばいになるでしょう(来年秋までに1バレルあたり88米ドル)。
インフラ分野は、インフレと金利に下支えされて引き続き堅調なパフォーマンスとなるでしょう。プライベート市場のバリュエーションがよく持ちこたえています。市場が落ち着くにつれて、資金調達と取引の鈍化は2023年第3四半期/第4四半期にも反転すると予測しています。 我々はエネルギーや輸送とともに、データセンターが魅力的なデジタルといったセクターを選好します。
実物不動産のバリュエーションに金利上昇が織り込まれるのは上場市場よりも6~12カ月遅れます。しかし、ほとんどのセクターと地域において空室率が低く賃料が堅調に伸びていることから、ファンダメンタルズは引き続き堅調です。景気後退によってリースが冷え込む可能性がありますが、労働力不足と資金不足によって建設も落ち込むでしょう。需要が増加している物流と、住宅不足という背景のある住宅建設を我々は選好します。
まとめると、我々は今後市場のボラティリティが高まると考えています。とりわけ長期的な課題に苦戦している中国について、現実に目が向けられることになるでしょう。とは言うものの、中国に対する現在の景況感は底打ちしたと我々は考えます。投資家の選好や市場見通しに応じて、収益やアップサイド、損失に対する守りを手にできる資産クラスが幅広く存在している、というのは投資家にとっては良い知らせです。