2022/12/15 CIO View Quarterly

簡単ではないが、選択肢のある年

2023年は今年のように極端な展開にはならないとしても、困難と無縁というわけではないでしょう。しかし、少なくとも投資家にとっては、債券の復活により可能性が広がる年になると考えています。

2022年12月号

簡単ではないが、選択肢のある年

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2023年は緩やかな景気後退に陥り、インフレ率が高止まる なかでその後の回復は緩慢なものとなるでしょう。したがって、 株式の上昇余地は乏しく、その一方で債券が魅力的な代替投 資先として再浮上しています。

Björn Jesch

グローバル・チーフ・インベストメント・オフィサー

DWSのCIO(最高投資責任者)の役割を引き受けるにあたり、これ程までに先行きがはっきりとしないタイミングはなかったでしょう。2023年を予測するにあたっては、記録的な高インフレ、超緩和的金融政策の終焉、デフレを輸出する成長マシンとしての中国の終焉、政治による世界貿易への継続的な攻撃、より多くの国に深刻な影響を及ぼす人口動態の変化、脱炭素化のコスト(と機会)、そして最後に、先行きが極めて不透明なウクライナ紛争など、片手の指で数えきれないほどの大きな構造的破壊と課題を考慮しなければなりません。

しかし、ウクライナ戦争の結果やその他の前述の課題は、少なくとも「Known Unknows(知らないと知っていること)」[1]です。資本市場では、予期せぬ展開、つまり新型コロナウイルスのようなブラックスワンに直面し不確実性が最も高まったときに、最悪のスランプに陥り、マイナスの勢いが急速に強まります。この観点から、2023年は、利回りや主要金利が過去数十年で最も上昇した2022年程の年にはならないでしょう。少なくとも2022年には、欧州の大国が第二次世界大戦以来初めて大規模な戦争を起こし、1970年代以降で最悪のインフレ高騰とエネルギー供給への不安を招くという事態が発生しました。また、中国と台湾の緊張関係も歓迎されない新たな動きとなりました。もちろん、2023年にはさらに「考えられない」ことが起こる可能性はあります。債券市場や為替相場における高いインプライド・ボラティリティは、投資家がいかに神経質になっているかを示しています。株式市場でも、大型株でさえ1日で2桁の値動きをして投資家に衝撃を与えることがあります。


2023年も投資家にとって困難と無縁にならないことは明らかです。米国と欧州では景気後退が予想され、株式のリターンは小幅になるとみています。しかし、堅調な労働市場、家計や企業の比較的健全なバランスシート、そして何よりも2022年の大幅な下落が、同様の規模の下落を防ぐ要因になると思われます。また、投資家の観点からは、株式、債券、オルタナティブなど全ての資産が苦戦し、バランスポートフォリオが苦境に立たされた時期を経て、再び分散投資の価値が高まっていることもプラス材料です。債券はようやくリターンを生み出し、リスク資産はもはや唯一の価値ある投資対象ではなくなりました。新興国債券や社債、特にハイ・イールド債は既に魅力的な利回りを提供しており、リスクプレミアムの再拡大にも耐えられるとみています。国債も、米国連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)が来年、利上げサイクルのピークに達すると予想されるため、再び選択肢のひとつとなるでしょう。2023年後半には、債券市場はその後に予想される利下げに注目することになると思います。そして、それまでの間はごくわずかな金利上昇にとどまる可能性が高いとみています。米2年債の利回りは低下し、イールドカーブは再び若干順イールドの状態に戻ると予想しています。

しかし、来年における中央銀行の反応関数を予測することは困難であると認識しています。金融市場の守護神は、すべての市場参加者と同じ課題、すなわち、これまでの中でも非常に珍しいインフレパターンに直面しています[2]。私たちは、米国の消費者物価上昇率は8.2%から4.1%に、ユーロ圏では8.4%から6.0%に低下すると予想していますが、コモディティ価格から賃金まで幅広い要素がインフレの変動要因となっており、依然として悩ましい状況です。したがって、中央銀行の仕事が終わるには程遠く、2023年も景気後退の代償を払ってでも引き締め姿勢を維持すると思われます。

インフレの持続は、たとえ様々な逆風に直面していても、結局のところ株式がすべてのポートフォリオに不可欠な要素であると思う理由のひとつです。一方で、多くのセクターが既に非常に健全な利益率を有し新年を迎えるため、さらなる利益成長の余地が限られていることが最大の障害であると考えています。バリュエーション面では、高インフレ率の継続とプラスの実質金利(米国は約1.5%) が重石となりそうです。後者は金価格にとって不利に働きますが、貴金属は中央銀行による高水準の買い入れ、地政学的リスクの継続、インフレなどから恩恵を受けると考えています。ドル高局面は、特に対ユーロでは終わりに向かうと考えています。

全体として、私たちは適度な謙虚さと慎重な楽観をもって来年を迎えます。マーケットでは神経質な横ばいの動きが続くと予想しており、これまでにない状況の下で金融政策は均衡を保つために模索を続けると思われます。債券と株式双方に可能性があるため、分散投資が再び広まると考えています。インフレや賃金の伸びが幾分穏やかになるたびに、投資家は中央銀行の転換点を探り、再び性急な行動をとる可能性があるとみています。また、景気後退の脅威についてもマーケットが先走る可能性があります。なぜなら、各地域の景気後退がどの程度続くかは、多くの不確定要素のひとつだからです。2023年の市場見通しは、これまでと同様、個々のデータではなく、グローバル全体を構成する多くの経済的・政治的諸要因の極めて複雑な相互作用によって決まる でしょう。

原題:Not an easy year, but one with alternatives

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投資関連情報

1. ドナルド・ラムズフェルド元米国防長官は、金融市場におけるブラックスワンに最も近いものとして「unknown unknowns(知らないことを知らないこと)」を挙げている。

2. 一部人口動態的な理由からの堅調な労働市場と比較的高い貯蓄率の中で供給サイドの混乱が発生している。一方、新型コロナウイルスによるロックダウンと政府の援助は多くの計算を複雑にしている。

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